東京高等裁判所 昭和45年(ネ)2147号 判決
一、有限会社においては会社を代表すべき取締役は、対外的には会社を代表し、対内的には業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関であつて、善良な管理者の注意をもつて会社のために忠実にその職務を執行し、広く会社業務全般にわたつて意を用いるべき職責を負うものである。されば、会社を代表すべき取締役が他の取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行になんら意を用いることなく、それらの者の不正行為ないし著しい任務懈怠を看過するに至つたような場合には、自らもまたその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたものというべきである。
二、しかして有限会社法第三〇条ノ三の規定は、取締役が職務の執行につき悪意又は重大な過失があり、そのために第三者に損害を被らしめた場合には、損害が直接的なものであると間接的なものであるとを問わず、いやしくも取締役の右故意又は重過失と損害の発生との間に相当因果関係がある限り取締役に損害賠償の義務を負わせる趣旨であると解するのが相当である。
ところで、本件において、訴外有限会社三共物産の専務取締役佐藤晴作は、会社の経営内容及び資産状態が悪化していて被控訴人から金員を借り入れても、期日に返済ができないことを予見し、又は容易に予見し得たにも拘らず、代表取締役としての控訴人名義の約束手形を振出して被控訴人から金一五〇万円を借入れ、右約束手形が支払不能となつた結果被控訴人に右同額の損害を被らせたものであつて、佐藤晴作がした右約束手形振出及び金員借入は、少くとも同人の職務執行上の重過失による行為というべきである。しかして、控訴人は代表取締役として、佐藤晴作の職務執行上の不正行為又は重過失による行為を未然に防止すべき職務上の義務があるにも拘らず、これを怠り、訴外会社の業務執行一切を佐藤晴作の独断専行に委ねて自ら関与するところなく代表取締役の印なども同人に保管させてその自由使用に任せておいたのであるから、控訴人にも少くとも職務執行上の重過失があり、しかもこの重過失と被控訴人が被つた前記損害との間には相当因果関係があるものというべきである。
(平賀 石田実 安達)